2026.01.17
【後編】物語は、指先の上で完結する
――INCA三冠作品に込められた、3つの世界
ネイルコンペティションの世界では、「美しい」だけでは、評価されません。
審査員が作品を見る時間は、わずか7秒。
その一瞬で、 世界観・技術・完成度・記憶への残り方――すべてを伝え切ること。
2025年、LeeB のネイリスト・山道がINCAで三冠を獲得した3作品は、 その“7秒”のために緻密に設計された小さな物語の集合体でした。ここでは、それぞれの作品に込められたストーリーと制作思想を紐解いていきます。
|ミックスメディアネイルアート

異世界とロマン、それぞれのチップに宿る小さな物語
この作品の軸にあるのは、「異世界」と「ロマン」、そして善と悪の対比。
モチーフとなったのは、どこか懐かしく、終わりのない物語――ネバーエンディングストーリーのような世界観。お姫様、王子、城。そしてそれに対峙する、メデューサ、ドラゴン、骸骨の王。一つひとつのチップは独立した存在でありながら、 並べた瞬間に、「物語としての流れ」が立ち上がるよう構成されています。
審査員が最初に目にするのは、 華やかさではなく違和感。美しさの中に潜む、少しダークな要素が、視線を強く引き寄せるための工夫。3Dを多用し、遠近感と立体感を誇張することで、7秒の中でも“奥行きのある世界”を感じさせる設計。ただ綺麗なだけでは終わらせない。それが、この作品の最大の特徴となっています。
|フラットネイルアート

平面に挑む、海の世界と「顔」という最大の難関
フラットネイルアートは、装飾品の使用が禁止され、ネイル素材のみで勝負する最もシビアな競技です。テーマは「海の世界」――パイレーツオブカリビアンを思わせる、冒険と危うさを孕んだ世界観です。
この作品で最も難易度が高かったのが、「顔」。小さなチップのさらにカーブのある面に破綻のない表情を描くには、線の太さ、色の選び方、ほんのわずかな歪みがすべて完成度に直結します。色数を多く使いながらも、うるさくならないよう抑制し、視線が自然と中心に集まる構図を意識したこの作品は、「華やかさ」よりも技術の密度で評価されました。
|サロンハンド&ペディアート

80年代ポップアートが放つ、色とエネルギー
3作目は一転して、エネルギッシュで明快な世界。テーマは、80年代ポップアート。
蛍光色を大胆に使い、一目で“楽しさ”が伝わる構成に仕上げています。この競技では、東南アジア勢の絵画力が非常に高く、平面表現だけでは不利になることも多いため、あえて3D要素を加える戦略をとりました。平面×立体の組み合わせによって、加点を狙いながら、他作品との差別化を図りました。結果として、「サロンワークの延長にありながらコンペティションとしても成立する」バランスの取れた一作となりました。
技術の先にあるもの
――物語は、サロンワークへと還っていく
これらの作品は、コンペティションのためだけに存在するものではなく、
・どうすれば一瞬で伝わるか
・どうすれば記憶に残るか
・どうすれば“語りたくなる”か
そのすべては、日々のサロンワークにも直結しています。ネイルが、ただの装飾ではなく、その人の気分や時間を変える存在であるために。指先に宿る小さな物語をお客様の日常へと丁寧にお渡しすることを常に心がけています。